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見えない鎖に繋がれて-アフリカ難民からのレポート  

序文

  
  難民自立支援ネットワーク(REN)の難民支援は、難民の生の声を伝えることから始まりました。2002年に、ケニア北部に位置するカクマ難民キャンプの難民による詩集『ママ・カクマ』の翻訳出版が叶ったことを皮切りに、同じカクマ難民キャンプの難民が発行していたKakuma News Bulletin、略してKANEBU (カネブ) を翻訳しウェブサイトに掲載し、私たちは難民のありのままの声を伝えようと努力してきました。

 難民に関する情報は、第三者による取材という、いわばフィルターを通して伝えられるものがほとんどでした。その中で取り上げられる難民は、長い行列でようやくキャンプにたどり着いた表情も失った人たちや、配給を我先にもらおうとする群衆、幼い子供を抱えた物言わぬ母親というのが定番だったように思います。その点、『ママ・カクマ』の詩は難民が自らの思いを綴った難民の声そのものであり、KANEBUの記事は難民が自分たちの置かれている不条理な立場と環境をキャンプ内外に向けて精一杯訴えるものでした。これらを読むことで、難民とは決してひとかたまりの群衆ではなく、それぞれが個性のある顔を持ち、固有の苦しみを経験し、独自の意志や感情を備えた個人なのだということを思い知らされました。それ以来、私たちは難民一人ひとりの意志や感情を大切にすることを肝に銘じつつ、難民支援活動を続けてきました。

 その後、KANEBUは編集長が第三国に定住しカクマキャンプを離れたことで、残念ながら休止となりましたが、新たにKakuma News Reflector、略してKANERE (カネレ)というウェブジャーナルが生まれました。KANEREもKANEBUと同様、カクマキャンプの難民ジャーナリストが自ら声を挙げ、あたかも鎖に繋がれたように自由も人権も享受できずに暮らす難民の苦悩を、真摯に世界に訴えています。どこからの圧力にも屈することなく、フリーの立場を貫き、時には支援者を向こうにまわしても難民としての意見を主張するKANEREのジャーナリストたち。その断固とした意志は、難民とは、一見、庇護を待つだけの脆弱な集団に見えるものの、実は意志強固な聡明な人たちなのだということを、再び思い知らせてくれます。

 私たちはKANEBU、KANEREの記事を、できるだけ大勢の方々に読んでいただき、悩みや苦しみの中にあっても勇気を持って自らの思いを発信している難民のことを知っていただきたい、ひいては、カクマの難民だけではなく世界各地、そして日本で暮らしている難民のことも理解していただきたい、そういう思いから、これらの記事を電子書籍にすることを思い立ちました。ここに収録されている記事をお読みいただき、目には見えない鎖に繋がれた難民の苦しみと、それに立ち向かっている熱き人たちのことに思いを馳せていただければと、切に思います。

 

2013年6月20日

 

特定非営利活動法人

難民自立支援ネットワーク

 

理事長 石谷尚子

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